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受け入れるから 3

Auteur: 花室 芽苳
last update Dernière mise à jour: 2025-07-22 17:10:07

 彬斗《りんと》君の言葉に苛立ち、グッと唇を噛む。彼の事だからきっとその話をしてくると思っていた。私の知っている伊藤《いとう》 彬斗という男は、こうやって人の弱い部分を突《つつ》くことが好きな人だから。

 ……だったら、私はあらかじめ用意していた言葉を喋るだけよ。

「それは御堂《みどう》と私の問題でしょう? 赤の他人の伊藤さんには、全く関係ないことだわ」

 彬斗君はあからさまにムッとした表情をする。きっと私が動揺しないで冷静に返したのが、気に入らないのでしょうね。

「……へえ、でも関係無いなんて言えないんじゃないかな? 被害者なんだぜ、俺は」

 やはり簡単に引き下がってはくれないようで。しかも自分だけが被害者のような顔を平気でするなんて、信じられない気持ちになる。

 ……そう思うけれど、そんな彬斗君よりもっと最低なのは過去の自分で。

「私も被害者だったと思っているわ、貴方の女癖の酷さのね」

 この人と付き合った後半の半年は、ただ辛いだけだった。何度も約束を破られ、他の女性と過ごす彼を待っている事しか出来なくて。

「……ずいぶん性格がひん曲がったな? 前みたいに素直な紗綾《さや》に戻してやろうか?」

「それこそ大きなお世話よ。こんな女が誰より可愛いと言ってくれる人もいるんだもの」

 そう、御堂《みどう》ならこんな可愛くない台詞も全て受け入れてくれる、自分の都合よく、相手を変えてしまおうなんてしない。

「はっ! そいつが受け入れてくれるといいな、お前の過去を……!」

 怒った彬斗君がそう言って、私の手首を掴んで引き寄せようとした。

 その瞬間――――

「悪いが紗綾の過去で、俺に受け入れられないものなんて何一つないんだが?」

 どこからともなく現れて、彬斗《りんと》君の手を払い落として私を庇うように前に出る|御堂《みどう》。その広い背中に守られて、今までで一番安心する。

「御堂、どうして……?」

 私は彼に何も伝えずにこの場所に来たのに、どうして御堂は私のいる場所が分かったのかだろうか? まさかこっそり後をついてきた……いいえ、私は後ろを何度も確認していたし。

「私もいますよ~、主任!」

 私の肩を叩いて、パチンとウインクして手を振る横井《よこい》さん。凄く助かったけれど、私の頭の中は疑問だらけで?

「横井さん、貴女までどうして? そもそも、貴方達はどうやってここに……
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